路線バス運転士として日々ハンドルを握りながら、ふとした瞬間に「じんわり心が温かくなる」出来事に出会うことがあります。
今日はそんな、小さくて大きなエピソードをひとつ、記録しておきたいと思います。
生協職員時代の「ありがとう」
バス運転士になる前、私は生協で配送の仕事をしていました。
組合員さんのお宅を一軒ずつ回って、商品をお届けする毎日。
その中でよくいただいたのが、
「いつもありがとうね」
「暑い中ご苦労さん」
といった労いの言葉や、小さな差し入れ。
冷たいお茶や、手作りのお菓子をいただくこともありました。
「また来てね」と言われるたび、疲れがスーッと抜けていったのを今でも覚えています。
バス運転士になって変わった人間関係
路線バスの運転士になってからは、そういった人と人との“ふれあい”がぐっと減りました。
当然といえば当然。毎日違う路線を走り、停留所ごとにたくさんのお客さまが乗ってきて、降りていく。
同じ方に何度もお会いすることもありますが、会話をする機会はほとんどありません。
時間に追われる業務の中で、誰かとゆっくり話す余裕もない。
だからこそ、ふとした心のやりとりが、ものすごく貴重に感じるのです。
「これ、あげる♥」未就園児からのチョコレート
そんな中、忘れられない出来事がありました。
ある日の午後、郊外の住宅街を走る路線でのこと。
バス停で降車する親子連れの小さな女の子が、私に駆け寄ってきて、
手のひらをパッと開いてこう言いました。
「うんてんしゅさん、これあげる💛」
手のひらの上には、小さなアポロのチョコレートが一粒。
お母さんが慌てて止めようとする中、私はとっさに笑って「ありがとう」とだけ言って、それを受け取りました。
たった一粒のチョコ。
でもその瞬間、なんとも言えないあたたかさが胸に広がったんです。
気持ちが伝わることのありがたさ
もしかしたら、その子にとってはただの「おすそわけ」だったのかもしれません。
もしくは、バスの運転士という職業が“すごくかっこよく見えた”のかも。
あるいは、「大変そうやな」と思ったのかもしれませんね(笑)。
どんな理由にせよ、あの小さなチョコひと粒には、**「あなたにあげたい」**という純粋な気持ちが詰まっていました。
その気持ちを受け取った瞬間、僕の中の疲れやストレスはふわっと軽くなりました。
バス運転士の仕事にも、確かにある“心の交流”
路線バスは、人を目的地に届ける手段であると同時に、人と人をつなぐ空間でもあります。
一人ひとりと言葉を交わす時間はなくても、毎日の乗車や降車の中で、互いに“気づき”や“思いやり”が生まれている。
- 「ありがとう」と降り際に言ってくれる学生さん
- お辞儀してバスを降りるお年寄り
- 席を譲る乗客の姿に気づく瞬間
そうした何気ない出来事も、すべてが運転士にとっての励みです。
まとめ:小さな優しさが、今日の元気になる
バス運転士という仕事は、ハンドルを握る時間以上に、人と接する心の持ち方が大切だと感じます。
あの日のアポロのチョコひと粒。
あれは僕にとって、ただの「お菓子」ではなく、がんばれって言われたような気がした瞬間でした。
これからも、そんな小さな心の交流を大切にしながら、毎日の運転に向き合っていきたいと思います。